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“甘え”は人間の成長になくてはならないもの

“甘え”は人間の成長になくてはならないもの

叱る前に考えてみましょう

我々は子供の幸せを願って子育てをしていますが、では子供の幸せとは何なのでしょうか。それは“自分は生きている価値がある、必要とされている”、そういった気持ち=「自己肯定感」を持つことです。

子育てで何を育てるのか。よくいわれるのは、しつけや学力ですが、実はその土台となるのが自己肯定感です。自己肯定感のある子供は困難に直面しても意欲的になれるし、人に対して思いやりや信頼感を持てます。自分が大切にされた経験があれば、人にも優しくなれる。反対に人に優しくなれない子供は、自分が大事にされた経験がないのです。

この自己肯定感を育てるために重要な役割を果たしているのが“甘え”です。甘えとは、平たくいうと相手の愛情を求めること。甘えが満たされると自分は愛されていると感じ、「自分は大切な人間」「自分は自分でいいんだ」といった気持ちが芽生え、自分にも、相手に対しても信頼感が生まれます。

「甘やかしてはいけない」「甘えるな」など、甘えは否定的な意味で使われることが多いですが、甘えは人間の成長にとってなくてはならないものです。甘えさせてもらえなかったり、うまく甘えることができなかったりして甘えが満たされない場合は、満たしてくれない相手に怒りが生まれます。そして自分は甘えさせてもらえるだけの価値のない人間だと思い込みます。それが周囲への不信感や怒りにつながり、自己肯定感はどんどん低くなります。人間関係が希薄になり、攻撃的になったり、あるいは被害者意識を持ったりしやすくなるのです。

いじめの加害者の中心人物は、虐待されたり放置されたり、どこかで被害を受けているというケースが多い。これは甘えが満ち足りていないということが根底にあるのです。また、アルコール依存症や薬物依存症、携帯電話依存症など、依存症になりやすい人も、幼少期の甘えが十分でないことの表れです。

ダメ出し文化が自信のない子を育てた

繰り返しになりますが、まず自己肯定感が育ってはじめて、しつけやルール、規範を守ることができ、そして学力が伸びるのです。この順番を間違えてはいけません。

自己肯定感をほったらかしにして、しつけやルールばかりに固執して子供を叱っていないでしょうか。そうすると子供は攻撃的になって、ますますしつけやルールは身につきません。約束事やルールが守れないことでまた親から叱られるので、さらに自己肯定感が下がる、という悪循環に陥ります。そういう場合は、いったん勉強やしつけは横において、もう一度、自己肯定感をしっかりと育て直すことが大切です。

しつけやルールは「やっていいこと」は○=これができる子はいい子で、「やってはいけないこと」は×=これができない子は悪い子、といった世界で、白黒がはっきりしています。けれども自己肯定感は“○でも×でもいい”のです。

「たとえ勉強ができなくても、あなたのことは大好きだよ」と、親が子供を受け入れてやるのです。「もちろん、いい子になってほしいけれど、たとえ非行に走っても、おまえはお父さんとお母さんの子供だ。見捨てないよ」。こうした気持ちに接することで育まれるのが自己肯定感です。そしてこの自己肯定感を育てられるのは家族しかいません。

日本の子供たちの自己評価の低さは世界の中でも突出しています。2011年に発表された「高校生の心と体の健康に関する調査」(日本青少年研究所)によると、「自分は価値のある人間だと思う」と答えた子供の割合がアメリカは89.1%、中国は87.7%なのに対し、日本は36.1%とひときわ低い数値。実に6割以上もの子供が、自分は価値のない人間だと思っています。

なぜ日本の子供は自己肯定感が低いのか。その背景にはできないところばかりを指摘する“ダメ出し文化”があると考えられます。欠点を直させようとする傾向があるため、すぐに欠点を克服できる子であればいいのですが、なかなかできない子は、ずっと叱られ続けることになります。何をするにも周りと比べたり、相手の顔色をうかがったりして、自己肯定感がどんどん失われていくのです。「褒めてばかりいると子供がやわになる」「子供は叱らないとつけあがる」ということを言う人がいますが、こういった人は日本の子供たちが、こんなに自己肯定感が低いという現状を知らないのではないでしょうか。また、その重大さの意味もわからないのではないかと思います。

子供たちはつけあがっているのではなく、自信がないのです。だから親や先生、教育に携わる大人は、もっともっと子供たちを褒めて、自己肯定感を育てる努力をしなくてはいけないし、「よくても悪くてもOKだよ」「そのままでいいんだよ」というメッセージを出し続けなくてはいけません。

正しい叱り方とは?

それでは、子供が間違った行動をしたときに叱ってはいけないのか、というとそうではありません。叱り方があります。

「おまえなんか、何をやってもだめだ」「おまえなんか生まれてこなきゃよかった」。こういった全面否定の叱り方は絶対にいけません。体罰や怒鳴りちらすのはもってのほかです。

体罰でねじ伏せられている子は、恐怖心から一時的に我慢したり謝ったりしているだけです。ですから、自分より弱い相手に対してや、大きくなって自分の子供ができてから、同じように恐怖心を与えて相手を支配したり、反社会的行動に出たり、精神疾患を発症したりするようになるのです。

また親が子供の言い分を聞かず、「子供は親の言うことを聞いて当然」とばかりに頭ごなしに叱り続けていると、子供は親に叱られるのが嫌なので、嘘をついたり相手のせいにしたりするようになります。

暴言、暴力、八つ当たりをする大人の中には「自分は甘えないでやってきた」という人がいますが、そういう人はいま、暴力で相手に対して甘えているのです。頭ごなしに叱ってしまう原因は大人側の忍耐力や自制心、子供への信頼の欠如にあると肝に銘じましょう。

叱るときは全面否定ではなく、いけないことはいけないときっぱりと言う。小学生の場合は、できないことばかりを叱るのではなく、大人から見たらできて当たり前と思うような小さなことでも、できていることを褒める。実際に、叱るよりは褒めるほうが、はるかによい習慣が身につくことも行動科学ではっきりと証明されています。

また、思春期に入ると「よくできたね」「頑張ったね」といった褒め言葉は、ばかにされているように受け取る子もいるので、「○○してくれてありがとう」「おかげで助かったよ」という感謝の言葉が有効です。

叱るにしても褒めるにしても、大事なのは親の価値観を伝えるということ。もちろん子供が親と同じ価値観でなければならないということではありませんが、親として「これは人間として許されない」「こういった大人になってほしい」ということを、きちんと子供に伝えていく。親に褒められたことはいつまでも忘れませんし、自分の行動で親が悲しんだときは悪いことをしたと反省します。褒める、叱るというのは、親の価値観を伝えるということなのです。

小学生編 ~できなくて注意するより、1回でもできたら褒めましょう~

1.何度言っても聞かない――食事なのにゲームに夢中

子供が本気で受け取っていないことがあるので、ペナルティーを与えるとよいでしょう。例えば30分以内に食べてもらわないと困るというときに、1回目に呼んで来なければイエローカード、さらに2回目も言い、それでも来なければ食事はなし。ルールを破ったら、それなりに報いがくることを教えます。肝心なのはペナルティーを予告し、予告どおりに実行すること。ペナルティーは子供と話し合って決めることも大事です。

2.約束を守れない――朝のごみ捨て係をすっぽかす

手伝いの約束が守れない。これは子供ができないことを約束させている可能性があります。だから約束するときは、どういうことならできるか、できることを子供に聞くこと。それでも役割を果たせないようなら、その約束は無理だった、とあらためてできることを探し、もう一度、約束を決めましょう。先のように人に迷惑を与える場合は、ペナルティーを科す方法も有効ですが、お手伝いの場合は必要ありません。

3.嘘をつく――自分が壊したのに人のせいにする

子供が嘘をついたときに大事なことは、大人が正確な情報を把握し、子供に嘘を嘘と認めさせることです。嘘を認めて謝れば、もうそれ以上は問題にしない。頻繁に嘘をつく子は、たいてい怒られすぎています。やってはいけないかどうかよりも親に怒られないことを優先させるからです。そういう子に必要なのは、悪いことはやったとしても、それを正直に報告する習慣をつけること。話したら「言ってくれてありがとう」と親は褒めることを忘れずに。

4.行儀が悪い――食べ方、挨拶、物を乱暴に扱う

行儀については親の価値観を繰り返し伝えていくしかありません。「食べ方が汚いと周りの人は嫌な気持ちがするよ」「挨拶してもらうと嬉しいよね」など相手の気持ちを考え、すべきこととすべきではないことを親が手本として示していきましょう。物を乱暴に扱ったり、粗末にしたりすることに対しても親の姿勢を見せていくことですが、物を与えられすぎているとそうなるのも仕方ありません。心を与えずに物ばかりを与えていないか、いま一度振り返ってみましょう。

5.悪い生活習慣――片づけない、時間を守らない……

こういったときに私たち大人が陥りがちなのは、やっていないときは注意して、やったときには褒めていないこと。たまにはやっているときもあるはずなのに、そういうときは何も褒めていません。これでは子供には反発心しか生まれないので、むしろできないときは放っておき、できたときに褒めるほうが効果的。大人がやれて当然のことも、子供にとっては、まだまだ当然ではありません。褒められると、子供はますますやる気がアップするはずです。

6.やるべきことをしない――宿題をやらない、提出物を出さない……

これは“問題所有の原則”といって、その問題の持ち分は子供であって親ではないので、親が口を出したり、干渉したりすべきではありません。自分がやらなければ、子供は学校で叱られて痛い思いをします。本来、子供が自分でやるべきことまで親が口出しや手出しすると、子供は親に言われるまでやらなくなります。年齢が低く習慣づけができていないうちは、親がある程度声がけしながら、サポートするとよいでしょう。

思春期編 ~心配している気持ちを伝えましょう~

1.親に対して何でも反抗――携帯電話ばかりで会話なし、禁止事項をしたがる

思春期なら当然起こりうることです。こういう場合は、とにかく子供には「心配している」ことを伝えます。いつも携帯電話ばかり見ていて家族と会話しないというのも思春期の特徴ですが、これに関しては友達関係ができているのでまだましと考えて。使い方は子供と相談してルールを決めましょう。無断外泊を繰り返すのは、家に居場所がなくなっているのかもしれません。悪い友達と付き合う、性やたばこ、ドラッグなどへの関心が止まらない、物欲が抑えられないといったときも、まずは「心配している」という親の気持ちを伝えることが第一です。

2.金銭欲が強い――親の財布からお金を盗む

自立には幼少期の身体的自立、思春期の精神的自立、青年期の経済的自立の3段階があります。思春期は、精神的には自立しているけれど経済的には依存している状態。言うことは聞かないのにお金ばかりを要求するのも当たり前なのです。けれども、それぞれの家庭の経済状況がありますから、小遣いを決めて、限度額を守らせることが大事。好き放題に与えていると、子供はお金の管理の仕方や節約を学べません。親の財布からお金を盗む行為については、二度とできないように家にあるお金や商品券は金庫に入れるなど、親自身がしっかりと管理しましょう。

3.引きこもる――友達をつくらず、ネットやゲームの仮想空間だけで生活

まず考えなくてはいけないことは、なぜそうなったかということ。例えばいじめにあったとか、嫌がらせを受けたとか、子供なりの事情があるはずなので話を聞き、そこから手だてを考えていきます。具体的には気を許せる友達と遊ぶ機会をセッティングしてやるといったことです。小学校高学年以降は子供にも表と裏の顔が出てくるので、友人関係が難しくなります。中学年までは先生から気に入られる子が友達からも好かれますが、高学年では先生の言うとおりにする子は嫌われます。特に発達障害の子はそういうことに対応しにくいので親の手助けが必要です。

4.勉強意欲の低下と焦り――カンニングをする

カンニングは絶対にしてはいけないわけですが、そこまで子供が追い込まれているという状況を周りは理解するべきではないでしょうか。もしかすると周りがそこまで追い込んでしまっているのかもしれません。とにかく成績のよしあしだけではなく、本人が精いっぱい努力して、それで出た結果なら何点でもいいと親は腹をくくり、そのことを子供にきちんと伝えましょう。結果さえよければよいという姿勢でなかったか、親も反省してみなければいけません。たとえ点数が悪くても、できなかったところを叱るのではなく、まずはできたところを褒めましょう。

明橋大二
精神科医。真生会富山病院心療内科部長、子どもの権利支援センターぱれっと理事長、スクールカウンセラー。漫画を交え、場面ごとの子育て方法を伝えた「子育てハッピーアドバイス」シリーズ(1万年堂出版)は累計400万部を突破している。


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