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『「大学中退からずっと無職」を脱したきっかけは、たった一人の友人の結婚だった』 マンション夜間管理は天職だった

「大学中退からずっと無職」を脱したきっかけは、たった一人の友人の結婚だった マンション夜間管理は天職だった

写真=iStock.com/monzenmachi※写真はイメージです

37歳の男性は大学1年の頃からひきこもり状態となり、一度も就労経験がなかった。そんな生活を10年以上続けた30歳の半ばころ、唯一の友人が結婚すると聞き、「祝儀を自分で稼いで渡したい」と突如マンションの夜間管理人バイトとして働き始めた。以来、ずっと働き続けられた意外な理由とは——。

親資産1億超のひとり息子37歳「ひきこもり10年」の脱出ストーリー

ひきこもり状態の家族がいる世帯から受ける家計相談では、当事者である子供が来訪するケースは少ない。だが今回のケースは、当事者であるAさんがファイナンシャルプランナーへ直接相談することを希望し、両親を伴っての相談が始まった。

当事者本人Aさんは、30代後半の男性。両親はともに60代を迎えたばかりである。記事を執筆している時点で、相談回数はすでに3回。後述するように、もともと資産状況に問題のない家庭だが、「唯一の友人への思い」がきっかけで、当事者が就業できるようになった事例としてご紹介しよう。
家族構成と家計・資産状況
貯蓄
約1億1000万円(母親が祖母からもらった相続財産が含まれている)
収入
父親 会社員(61歳) 年収約500万円
母親 パート(60歳) 年収約60万円
Aさん(長男)アルバイト(37歳) 年収約100万円
支出
家族全体で年間420万円程度
・戸建ての持ち家で家賃負担なし
・長男の国民年金保険料は親が負担

大学には1学期も通えず徐々にひきこもり状況は悪化した

まずは、当事者であるAさんの過去を振り返ってみることにしよう。

Aさんは浪人を経て大学に進学したものの、1年生のゴールデンウイーク明けから学校に通えなくなった。本来、人付き合いが苦手なおとなしい性格で、ゴールデンウイークに入るまでに仲の良い友達を大学で作ることができず、「ひとりぼっち」の学生生活を想像すると、登校するのが怖くなったという。

街の中で一人の男性

写真=iStock.com/AH86※写真はイメージです

学校に行けなくなっても、しばらくは買い物などで外出していたが、同級生が2年生に上がる頃、「自分は進級できない現実」を実感して、徐々に外出も難しくなっていった。

両親は結局、大学2年生の分までは学費を払ったが、1単位も取れていなかったため、大学3年生に進級することは難しいとの大学側の指摘で、退学することになった。

大学に行かなくなってからは、家からほとんど出ない時間が「年単位」で続いていたが、小学校、中学校時代の友人で、唯一連絡を取り続けていた人がいた。

その唯一の友人とAさんとは、20代になっても年に2回程度、食事をしていた。そしてひきこもりのまま30代となった頃、その友人から「実は俺、結婚することになったんだ」という話が出た。

その話を聞いたときは、自分の状況を理解してくれる唯一の存在を失う気がして、しばらくはショックから立ち直れなかったという。

ところが、「結婚式に招待するつもりだけど、出席してくれるか?」と聞かれたことで、一念発起。「親に言えば、ご祝儀は出してくれるはずだけど、彼へのご祝儀だけは自分で稼ぎたい」という意欲が湧いたのだった。

今まで、アルバイトの経験もなかったが、Aさんは自分でアルバイトを探し、採用後、すぐに働き始めた。

この時点まで、ひきこもり状態は10年以上続いており、コンビニに買い物に行く以外は家から出られないくらい状態は悪化していたにもかかわらず、Aさんはいきなりの社会復帰を果たすこととなる。

Aさんが働き始めた事実に、ご両親は喜びつつも、大きな戸惑いを感じたという。

同世代がいないバイトを探したことが長く続いているコツ

Aさんがアルバイト探しをする際、ポイントと考えたのは以下の通り。

➀同年代の人とはうまく会話できないので、若い世代が少ない仕事であること。
②午前中に起きるのはつらいため、早くても午後から、できれば夕方以降の仕事であること。
➂体調が悪くて休んだとしても、すぐにクビにされなくて済みそうな、それほど人気の高くない仕事であること。
④電車で通うのは難しいので、自転車、あるいは50ccのバイクで通える範囲に職場があること。

これらの条件をクリアし、Aさんが得た仕事は、マンションの夜間管理人だった。

「24時間常駐管理」のマンションで、深夜だけの勤務というのが、彼の人生初の仕事になった。

深夜帯なので、アルバイトにしては時給もよく、で1200円以上になるという。

ひきこもり10年超の男性が結婚式後の今もアルバイトを継続するワケ

Aさんは週に2回程度のアルバイトを続け、無事に友人への祝儀代を稼ぐことができた。

自分で稼げるようになると、お金よりも結婚式(披露宴)で過去の知り合いに出会うことのほうに勇気が要ったが、それも何とか乗り越え、久しぶりに大勢の人が集まる席にも参加することができた。

幸せな結婚式

写真=iStock.com/kyonntra※写真はイメージです

同世代の友人と会話するのが苦手なAさんが窮することなくその場に参加できたのは、おそらく唯一の友人である彼が、Aさんの状況を彼の友人たちに説明してくれていたからではないかと、想像している。

さて、先に紹介した資産状況をご覧いただくと、Aさん家庭は、親が持つ資産(貯蓄約1億1000万円)で、サバイバルプラン(親亡き後も生きていくためのプラン)が成り立つことは想像いただけるだろう。

Aさんのケースでは、1回目の相談時にサバイバルプランが成り立つことを、ご両親、Aさんとも確認ができていた。

Aさんにとっての問題は、兄弟姉妹がいないひとりっ子であり、いとことも疎遠で、親亡き後のサポートを頼める親類が1人もいないこと。そのため、Aさんのサポートを、誰に、どのように託していくかに、相談の焦点は移行していた。

そのような相談過程で、思いがけずAさんが働き始めたことになるが、実はAさんの仕事には続きがある。

結婚式も終わったので、アルバイトを辞めようと思っていたAさんに、雇い先から正社員登用の話があったのだ。

雇用先の人事担当者から、「君はまじめに働いてくれているから、よかったら正社員にならないか?」と誘われたのだ。思いがけない誘いで、Aさんも正社員になることに魅力を感じないわけではなかったが、結果として正社員の誘いは断り、かつ今も同じ職場でアルバイトを続けている。

「バイト先にはおじいさんは僕を孫のようにかわいがってくれる」

その理由をAさんに尋ねると、次のようなコメントが返ってきた。

「今のアルバイト先にはおじいさんしかいなくて、みんな僕を孫のようにかわいがってくれています。それに、深夜の時間帯しか働いていないので、住民と顔を合わせる機会もほとんどありません。人付き合いが苦手な僕には、とてもありがたい職場なんです。ですが、もし僕が正社員になったら、昼間の勤務を強要されるかもしれませんよね。昼間の時間帯に働くことになれば、いろいろなトラブルに対応しなければならないと思うんですね。僕にはトラブル対応する能力はないので、深夜にひっそりと働くのが向いていると思っています」

ひきこもり期間が長い人は、世間話だとしても、世間の荒波にもまれながら働いてきた同世代から質問を受けるのが怖いと感じるケースが多いはずだ。Aさんもそのように感じたからこそ、同世代がいない職場を見つけて、なんとか社会復帰を果たしたのである。

「自分の苦手なことを避けられる職場を見つける」が社会復帰のカギ

Aさんの場合、父親がまだ現役社員で年収500万円あり、母親もパート収入が年60万円あること、また、すでに億超えの資産をもっており、経済的に恵まれている背景があるからこそ、「アルバイトのまま働く選択」が可能なわけだが、正社員にこだわって、無理して働き、職場でのいじめやパワハラに遭って精神状態をさらに悪化させてしまうケースはいくらでもある。

自分の苦手なことを整理して、それを避けられる職場を見つけるのも、ひきこもりの社会復帰のプランのひとつの方法になるのではないかと、筆者自身もAさんのケースから学ぶことができた。

扉に手をかけた男性

写真=iStock.com/Goodboy Picture Company※写真はイメージです

「今のような職場環境であれば、特に辞める必要性も感じないですし、働き続けていたほうが、ひきこもっていた時よりも体調もいい気がします」というAさん。

今後は、両親のどちらかが亡くなった時の一次相続、両親ともが亡くなった場合の二次相続についての相続対策をはじめ、入院するときに必要となる保証人の確保、また万が一、認知症などで手続きが難しくなった場合に手続きを代行してくれる後見人の確保など、親亡き後のサポートを模索していくことになる。

とはいえ、Aさんはまだ37歳だ。

この先、結婚して伴侶ができたり、子どもを持ったりする可能性もあるはずだ。

冒頭で述べた通り、Aさんのケースは親が持つ資産をAさんが正確に知りたいと願ったために、ファイナンシャルプランナーへの相談につながった。

そして初回の相談からすでに、サバイバルプランの内容を、ご両親、Aさんの三者とも理解できている。

Aさんの年齢と、サバイバルプランが成り立つはずの現実を考えると、親亡き後のサポートについては、ゆっくりと時間をかけてプランを練れば十分だと感じている。今は両親と一緒に、筆者自身も、Aさんが長く働き続けられるように願っているところである。


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